出版しました。

このたび、はじめてお話をいただいてから三年の期間を経て、翻訳させていただいた本が、洛北出版さんから無事発刊されました。

親密性

親密性

わたしは、主に下訳と原作著者や領域の背景を中心に全体的な文章の翻訳を行いました。解説も書かせていただいています。共訳の檜垣先生には、この件にかんして本当にお世話になりました。わたしは先生からたくさんの叱咤激励をいただきながら、作業を進めてきました。この本を作ることを通して、わたし自身がとても成長することができました。出版社の竹中さんにも、ことばにすることのできない程の大きなこころで見守っていただいたと思います。校正をしてくれた同僚をはじめ、研究室の皆さんにも感謝しています。
本書は、1990年代に翻訳が日本で出版されて以来の邦訳書です。20年前後のあいだ、ベルサーニの思想は、ジュディス・バトラーなどクィア理論の研究者に影響を与えたものの、日本に直接的に紹介されることは少なかったという事実があります。その間の日本のクィア理論・セクシュアリティ研究の興隆については、わたしは不勉強なために詳しくありません。ですが、本書のベルサーニの思想は、より熟成されたものであるにもかかわらず、そしてブランクを経ても尚、日本で検討されるクィア理論・セクシュアリティ研究に大きな影響を持つもとであると確信しています。
ジェンダーセクシュアリティクィア研究という、研究者の当時者性や立場や権力への意識や発話の責任が問われ続ける宿命を持った分野に所属する著者の著作です。単に、一般的で抽象的な哲学の議論に回収されることは、避けなければならないと強く思います。その上で、今回、デリダドゥルーズなどを筆頭とする現代思想の分野に対しても踏み込んだベルサーニのことばが、その領域に少しでも知られることを、とても誇りに思います。まさにベルサーニが言うように、「わたしのものであり、わたしのものではないもの」として本書が位置づけられるのではないでしょうか。

書店で見かけた折には、どうぞ手にとって中を開いてみてください。竹中さんによる装幀はとても美しく、わたしが初めて原著を読んだときの「仄暗く混沌としたなかに、キラキラした宝石を見つけることができるような箱」という抽象的なイメージが表紙に現されていることを奇跡のことのように思います。この本が、ひとの日常を顛覆させるような経験を少しでも多くのひとに与えることができますように。